心象風景のレッスン
新宿御苑

心象風景とは、心の中に思い描いたり、浮かんだりする風景のことだと言われている。しかし、ぼくは思う。現実の風景にも感情が投影されている、と。

風景画家として有名な「東山魁夷」は、画家になる前にこんな体験をしたという。

戦時中、彼は特攻隊としての、つまり、爆弾をもって戦車に突撃するための訓練をやらされていた。そんなある日、焼け跡の整理をするために熊本城にのぼった。

熊本城から見る景色は雄大だが、いつも旅をしていた彼にとって珍しい風景ではなかった。しかし、その日、彼の目からは涙があふれ出したという。

──どうして、あんなにも空が遠く澄んで、連なる山並みが落ち着いた威厳に満ち、平野の緑は生き生きと輝き、森の樹々が充実した佇まいを示しているのか。

これまでにこんなにも美しい風景を見たであろうか。おそらく、平凡な風景として見過ごしてきたのに違いない。これをなぜ描かなかったのであろうか。今はもう、絵を描くという望みはおろか、生きる希望もなくなったというのに──

まもなく終戦となり、彼は生き残った。そして、日本画家としての道を歩みはじめる。すぐに頭角をあらわし、「国民的画家」と呼ばれて文化勲章も受章。全国を渡り歩いて日本人の心を映したかのような風景画を数多く残した。

たとえば、彼の代表作である「道」。青森県八戸市の種差海岸にある牧場でスケッチをして描かれたというこの作品には、強い意志が感じられる。先に何があるかわからないけれど、それでも前を向いて歩いていくしかないのだ、と。

東山魁夷は、こんな言葉を残している。

「風景とは人間の心の祈りであり、心の鏡。普通の風景も、心が純粋になれば生命にあふれる。」

出会った風景に、自分の心を重ねること。彼が描いてきたのは「心象風景を見つめる旅」にほかならない。とはいえ、特攻隊の心境に至ることは難しいかもしれない。そうでなくても、心象風景を映し出すヒントはある。

それは、目の前の風景にあるコンテキストを知ること。その物語を知ることで、見える景色が変わる。思いがけず、その物語があなたの心境と重なり、見えなかった景色が見えてくるかもしれない。それを「心象風景のレッスン」と言いたいと思う。

心象風景を描いてきたのは画家だけじゃない。万葉集の時代の歌人から、俳人・松尾芭蕉、詩人・宮沢賢治、そして、現代の心象風景の描き手といえば、ぼくは「アニメーション監督・新海誠」だと考えている。

彼の作品に、梅雨の新宿御苑を舞台にした映画「言の葉の庭」がある。現実より美しいと評される映像作品だが、まだ観ていなければ、旅の終わりに観てほしい。日常のありふれた風景を、美しく描き変えること。それはアニメが得意とすることでもある。

新宿御苑は歴史的に見れば、国内外の植物が集められた植物図鑑。風景に溶けこんでいる木々の、その一本一本にも物語がある。そして、春、夏、秋、冬。季節ごとに移り変わる花鳥風月。日本に3つしかない国民公園のひとつであり、その風景は国民の心を象徴するものとされている。

新宿御苑の風景は、あなたにはどう見えるだろうか。

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