牛丼はニュースだ。
劇場だ。
事件は牛丼屋で起きている。

牛丼がある限り生きていける。
それは、腹の支えであり、心の支えでもある。

牛丼一杯300円。
日本の物価を考えると安すぎる。
企業努力とはなんなのか、
牛丼屋は体を張って教えてくれる存在だ。

牛丼一杯380円、になったりもする。
米不足、BSE、リーマンショック、理由はさまざまだ。
ただ、牛丼屋の存在はあまりに身近で、
その価格変動は財布を直撃する。

日本経済や、社会情勢などの
テレビの向こう側の事件が可視化される。
その影響を肌で感じる現場であり、劇場。
それが牛丼屋なのではないだろうか。

なんにしても、牛丼は裏切らない。
どんな情勢であっても、うまい、はやい、やすい。
牛丼よりコスパのいい食べ物は存在しない。

 1000円のハンバーガーを
 食べるくらいなら、
 牛丼が3杯食べられる。

そうやって、
牛丼で換算するようになったら、一人前だ。

牛丼屋は24時間年中無休の市街劇。
劇団員は、ぼくたち庶民であり、あなただ。

日本人を肉食にしたのは
牛丼屋かもしれない。

牛丼の歴史は、吉野家の歴史。

日本には牛肉を食べる文化はなかった。
しかし、江戸時代末期の開国を機に、
外国人が牛肉を食べる姿を目の当たりにする。
そして、1862年に日本初の牛鍋屋が誕生。
まもなく明治維新、文明開化。
1877年には東京だけで550軒の牛鍋屋が。
牛鍋は、やがて「すき焼き」に発展する。
余談だが、牛肉の臭みを煮込んで消したのが牛鍋。
牛肉の質が向上したことで、
焼いてタレをかけるようになったのがすき焼きだ。
牛丼は、牛鍋をごはんにかけたことからはじまった。

1899年に「吉野家」が誕生。
日本橋の魚市場にあり労働者のための食堂だった。
とはいえ、牛肉はまだまだ高級品。
鰻重と同じくらいの価格だったという。
関東大震災を機に築地に移店したのち、
戦後は行列が絶えない名物店に。

同時に多店舗化に向けて舵をきる。
「はやい、うまい、やすい」をキーワードに、
輸入肉を取りいれ、全国に安価で牛丼を普及させる。
1977年に100店、翌年には200店を突破。
後を追うように松屋、すき家などの競合も急成長。
それもそのはず。
松屋の創業者は吉野家の常連客であり、
すき家の創業者は吉野家の社員だったという。

変動する牛丼相場。
劇場化する牛丼屋。

消費税増税、アジア金融危機、
そして、2001年の小泉時代の経済政策により
日本にデフレの波が押し寄せた。すると、
400円だった吉野家の牛丼は、280円に。

2003年にはBSE問題が発覚。
アメリカ牛肉の輸入を禁止したため、
輸入肉に頼っていた牛丼屋は大打撃。
販売中止に追いこまれた店舗も続出した。

しかし、逆境をバネに進化を遂げる。
豚丼、焼鳥丼、カレー丼、海鮮丼、麻婆丼。
各社は牛肉を使わない新メニューをこぞって開発。
やがて牛肉の輸入も再開され、3年のブランクを経て
2006年、吉野家の牛丼は380円で復活する。

2009年にはリーマンショック、金融危機。
再びデフレとなり、牛丼は280円に。
2012年、アベノミクスでデフレ脱却をはかるも、
2013年の牛丼相場は280円のまま。
翌年には消費税増税により300円に。
その後、まもなく380円に引き上げられた。

一連の価格競争には、社会情勢だけでなく、
吉野家、すき家、松屋、それぞれの思惑も重なり、
牛丼相場をめぐるデッドヒートの火種となる。

また、最近では新たな問題も浮上している。
BSE問題で多様化したメニューは客層を広げた。
しかし、オペレーションも多様化したことで
スタッフの負担が激増。24時間営業による残業も含めて
働きかたが見直される現代で問題視されている。

日本の経済問題や、社会問題の写し鏡として、
時代の変化を身近に感じさせる劇場。
その意味でも見逃せないのが、牛丼屋なのである。

あなたの流派、
いや、牛派はどこだ?

牛丼御三家と呼ばれる
吉野家、松屋、すき家。

しのぎを削るとはこのことで、
味の追求、メニュー開発、価格競争と
3社は常にデッドヒートを繰り広げている。

店を選ぶ際の個人的な視点をお教えしよう。

・味の「吉野家」
日本中に牛丼を知らしめた元祖。個人的には、やっぱり吉野家がいちばん美味い。味の当たりハズレもなく安定しているのも流石。創業当時は牛丼が高級品であったことから、上等な有田焼の器が使われている。

・味噌汁を目当てに「松屋」
1966年創業。牛丼のことを「牛めし」と呼ぶ。なんといっても無料で味噌汁がついてくる。加えて、牛めし以外のメニューがとりわけ豊富。東京や大阪などの都市圏では、吉野家・すき家と店舗数が拮抗しているが、地方で見かけることは少ない。

・とにかく安い「すき家」
マジで安い。2008年に店舗数で吉野家を抜いた。最も勢いがある牛丼界のソフトバンク。キムチやチーズといった牛丼のトッピングも特徴的。業界No.1として、近年の牛丼相場をリードしているのはすき家。

御三家以外にも牛丼屋はある。

・すき焼き風の「なか卯」
牛肉と玉ねぎだけでなく、白滝、ネギ、椎茸、豆腐も。「すき焼き丼」を思わせる上品な味わい。店内には女性も多く見受けられ、うどんが食べられることも特徴。実は、すき家と同じゼンショーグループである。

・焼き牛丼「東京チカラめし」
注文を受けてから、一枚一枚、肉を焼く。2011年に1号店が誕生。翌年には100店舗を超えるという驚きの出店ペースであった。しかし、現在は10店程度。再建を待つ。

・浅草今半
牛めし屋として100年の歴史を持つ老舗。現在ではランチで牛丼が食べられる。一杯1500円。当然、肉は大きくて厚い。チェーン店ではない牛丼を味わうならココ。

裏メニューを知って、
あなた好みの牛丼を。

その男は、メニューすら広げない。

席に着くと、店員が水を持ってくる。
コトリ、とコップが置かれると同時に頼むのだ。
「牛丼、並盛、ツユダクで」と。

ニヤリ、と店員は心得て声をあげる。
「ツユダク、一丁!」
待つこと20秒で着丼だ。

すかさず紅生姜をひとつまみ。
その上に七味をふりかける。
さっそく「いただきます」。

かきこむこと3分。
米一粒として残さない。
どんぶりは空になり、
胃袋は幸腹で満たされる。

その男とは、あなただ。

1:まずはサイズ。迷ったら並盛で。

「並盛」「大盛」「特盛」が基本。ごはんの量は並盛でおよそ260g。大盛、特盛とごはんの量も肉の量も増えていく。しかし、コストパフォーマンスの面から見ると並盛があきらかにおトク。特盛を頼むぐらいなら並盛をふたつ食べてやる、と高校男児は考える。松屋は券売機での購入となるが、吉野家とすき家は席に着くと店員が注文を聞きに来てくれる。

2:必要に応じて裏メニューをコール。

メニューには書かれていないが、牛丼にかけるつゆの量を変えるコールがある。

・「ツユヌキ」
つゆが抜かれて、さっぱりとした牛丼になる。持ち帰りの弁当の場合、ごはんがつゆを吸ってしまうので有効かもしれない。

・「ツユダク」
つゆがたくさん。味は濃いめに。恥ずかしがらずに注文できるポピュラーな裏メニュー。

・「ツユダクダク」
ごはんが浸かるぐらい、つゆがダクダク。リゾットのようになる。

たまねぎの量を変える「ネギヌキ」や「ネギダク」もある。

3:景気づけに玉子をトッピング。

いいことがあった日は、ちょっと豪華に生玉子を追加。「たまごかけごはん」のようにぶっかけると、並盛も幸せだけは特盛に。

4:紅生姜や七味はお好みで。

牛丼を単品で食べると、味が一定で飽きがくる。そんなときは、紅生姜や七味をくわえよう。「紅生姜丼」と呼びたくなるほどドッサリとくわえる人もいるが、ほどほどに。

築地にある吉野家の1号店では、さらなる裏メニューがあると言われている。

なんにしても、牛丼はうまい。白米が見えないほどたっぷりの牛肉。甘くとろける玉ねぎも。腹が減ったら、そこに看板があるのが肉たらしい。そうして、ぼくたち庶民は、おとといは吉野家、きのうは松屋だったから、きょうはすき家へと、愛も変わらず、牛丼屋に通うのだ。

あなたも、牛丼屋に通えば通うほど、日本の庶民の暮らしがわかるはずだ。

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