ニュースで、その国を嫌いにならないでください。
志賀章人の物語

READIO ON THE TRIP vol.3

READIO とは、文字で読むラジオ

vol.1vol.2と、代表の成瀬さんにお話を聞いてきましたが、今回は語り手を務めている「ぼく」について自己紹介をしたいと思います。ぼくも ON THE TRIP の中の人。「トラベルコピーライター」の志賀章人です。ON THE TRIPという会社を成瀬さんと考え、ガイドのコンセプトや文章を書き、ときにコンテンツのディレクションをしたり、ワンバイフォーを切ったりドリルドライバーを握ったりしながら、こうして「プレスリリース」を書いたりもしています。

会社のプレスリリースとは、どうあるべきか。それを考えたときに、いかにもプレスリリースっぽい「情報」にはしたくないなぁと思いました。ON THE TRIP の根幹にあるのは「その土地に根付く物語を伝える」ということ。そこで、その当事者であるぼく自身が語り手となり、ON THE TRIP という会社のはじまりから、その変遷をレポートしていきたい。まるで深夜ラジオを配信するように。家に帰ってひとり、何気なくつけたラジオがこの電波をキャッチして思わず聞き入ってしまうような番組を。プレスリリースを「文字で読むラジオ」と定義して発信していきたいと思ったのです。だから、READ+RADIOで「READIO」。

前置きが長くなってしまいましたが、vol.2で成瀬さんに聞いたように、ON THE TRIP の主語である「ぼくたち」の中のひとりである「ぼく」とは何者なのか? というところから話していきたいと思います。よかったら、聞いてください。

中国人が「いいひと」だったという衝撃


はじめての海外旅行が中国でした。それも、大学が主催する交換留学会みたいなもので、北京から山西省というマニアックな地域まで移動しながら、各地の学生たちと交流するプログラム。その旅で出会った中国の人たちが、もれなく「いいひと」だった。ぼくには、それが衝撃だったんです。

テレビに映し出される反日報道を見てきたせいで、ぼくは日本人だと明かした瞬間に石でも投げられるんじゃないかと思っていたんです。でも、実際はそうじゃない。中国で出会った人たちはみんな優しくて、日本のことを好きでいてくれていました。反日というイメージは中国の一部でしかないんだ。ぼくは、自分の体験を通してはじめてそれに気づいたのでした。

「この事実を、同世代の日本人に伝えなくてはならない」

使命感が湧いてきました。そして、旅の報告会としてフリーペーパーを作ったり、公演をしたり、いろいろとやってみました。「使命感」と書きましたが、そんな気持ちははじめてでした。寝るのがもったいない。無限にエネルギーが湧いてくる。夢中になるという言葉の意味を体感できた気がしました。

でも、なかなかうまく伝わらない。フリーペーパーなんて、めちゃくちゃ面白いものが書けたと思っていたのに、手に取ってもらえない。そのとき、こう思ったのです。なにも中国のことだけじゃない。これから先、ぼくはいろんな世界を知るだろう。そのとき、伝えたい人に伝えたいことを伝えられないなんてもったいない。その手段や技術を身につけたい。そう思って、コピーライターを志すようになりました。コピーライターという仕事はそのケーススタディの場であると思ったのです。

バックパッカーからコピーライターへ


世界には先入観がひっくり返るような衝撃がまだまだあるに違いない。中国に行ってからのぼくは、そう思うようになりました。そのころ、大学の図書館には大先輩である沢木耕太郎さんの書籍を集めた本棚があり、そこに「深夜特急」がありました。有名な本なので知っている人が多いでしょう。それを読んだらもう、いてもたってもいられずバックパッカーの旅に出ました。

シンガポール、マレーシア、タイ、カンボジア、ベトナム、中国、チベット、ネパール、インド、バングラデシュ、イエメン、イラン、トルコ、シリア、ヨルダン、エジプト。ユーラシア大陸を半年かけて旅しました。この旅のことは「TRAVERING」で書いていますが、ぼくにとって原体験の宝庫です。

そして、エジプトから帰国してすぐに髪を切り髭を剃り、広告会社のコピーライターに就職しました。この仕事がまためちゃくちゃおもしろい。書いて書いて書き続けました。それから7年。クルマ、スーツ、ブラジャー、とコピーを書き続ける日々で思ったんです。ぼくはクルマも乗らないしスーツも着ないし、ましてやブラジャーもつけないよなぁ、と。

もちろん、知らない世界を知っていくことが楽しくて、それがやりたくてコピーライターになったのですが、そろそろ、自分の体験により近いところで言葉を書きたいと思いはじめました。深夜特急を書いた沢木耕太郎さんが、こんなことを言っているんです。「ルポライターは他人の声を借りて自分を語ろうとする仕事。それが職業的になればなるほど、自分を語れなくなっていく」と。コピーライターも同じだと思いました。

そこで、当時住んでいたシェアハウスの広告を作らせてもらったり、身近な仲間が起こしたプロジェクトのコピーを書かせてもらったりしはじめたんです。それと同時に、とある広告賞で受賞することもありました。新聞広告のコンテストなんですが、ぼくが書いたコピーは「ニュースで、その国を嫌いにならないでください。」というもの。

このコピーは、中国や世界でバックパッカーをしていたときの自分の原体験を語ったものです。この言葉で受賞できたとき、「やっぱりこういうことだよな」と確信が持てた気がしたんです。もっと自分が当事者になれるところで言葉を書いていくべきだ。ぼくにとっての一番の自分ごとは「旅」。まず旅を書くことだと思ったんです。それがトラベルライターとしてのはじまりでした。

コピーライターからトラベルライターへ


いくつかの旅の連載を持たせてもらえるようになり、広告会社を退社して、旅に専念してみることにしました。その年はバイクで東北を北上して北海道を一周。翌年もバイクで中国・四国地方を越えて九州を一周。ほかにも、奄美や沖縄の離島、対馬など、日本全国を旅してまわりました。そして、ひたすら旅を書く。主に「未知の細道」や「Wandurlust」などのメディアに寄稿させてもらいました。

そして、2年が経った今、ON THE TRIP の立ち上げに参画しています。実は、成瀬さんと出会ったのも2年前。会社を辞めるか辞めないかというタイミングでした。成瀬さんがぼくに声をかけてくれたのは「ニュースで、その国を嫌いにならないでください。」というコピーを見てくれたことが大きかったのだと思います。心から共感してくれて、それはそのまま ON THE TRIP のビジョンに生きています。

「とにかく一緒に何かをやろう」と、週に1度、電話や銭湯でミーティングを重ねました。バリで、博多で、草津で、旅をしながらアイデアを出し合うこともありました。そして、構想2年(と、ぼくは思っている)。ついに、現在の ON THE TRIP が生まれました。ネーミングもコピーも「自分の会社」を書いてみなくては分からないことがたくさんありました(もちろん、成瀬さんと一緒に書いたものですが)。

沢木耕太郎さんは、自分を「取材する者」として客観的な立場に置くのではなく、自分を「主人公」にして対象と行動をともにすることで、自分と対象を同一化させていったと言われています。ぼくが、ON THE TRIPという会社でもなお、コピーライターを名乗り続ける理由はそこにあるのだと思います。ぼくは、自分を主人公にして、自分の会社と行動をともにすることで、自分とコピーを同一化させてみたいのです。

これは誰も書いたことがない領域ではないか


ぼくは今、大地の芸術祭、新宿御苑、浅草寺など、ガイドコンテンツをひたすら書いて作っています。とくに、大地の芸術祭は ON THE TRIP の最初のガイドとして、これ以上にないテーマでした。

ぼくたちには、いわゆるガイドブックにあるような情報ではなく、その土地に根付く物語を伝えたいという気持ちがあるのですが、大地の芸術祭がまさにそれをやっていました。その土地に根付いた物語をアートを媒介にして表現していたのです。ぼくは作品にこめられた物語に耳をすませて言葉にする。それだけでよかった。「そして、アートはあなたに問いかける。」というコンセプトも口ずさむようにスルッと出てきました。

新宿御苑のガイドには、ぼくが個人的に好きなもの、書きたいことをとことん詰め込みました。成瀬さんや森上さんには「エモいとキモいは紙一重」と笑われましたが、ぼく自身は「キモい」とも「エモい」とも思っていません。自信を持って、ぼくにしか書けない新宿御苑が書けた気がするなぁと思っています。広告などではよく「ターゲットは誰?」という話をしますが、「ターゲットは自分でしかありえない」とぼくは思っています。「言の葉の庭」という作品が大好きで、それを見て新宿御苑に行きたくなった自分。ぼくは、ぼくに向けて書いているのだと思います。

浅草寺のガイドは「めくる」というアプリの挙動をヒントに考えました。でも、メインはそこではありません。ON THE TRIP のガイドは、ひとつの観光スポットの中にある、たくさんの見どころに「1本の軸」を通すこと。その軸こそが物語。物語がもつ文脈によって、バラバラに見える文化財がひもづいて見えてくるようなガイドにしたい。旅人が主人公となって歩みを進めるたびに理解が深まるような。それを、シンプルに実現してみたいと思って書きました。

3つのガイドを読んでいただくと、それぞれが全く違うアプローチになっていると思います。これはトラベルライターの仕事でも、コピーライターの仕事でもありません。でも、そのどちらでもあると言えるような独特のライティングであるような気がします、と、偉そうなことを語っていますが、果たして、これまでのガイドが「旅の体験をふくらませる」ものになっているのか。常に模索を続けながら、かつてないガイドにたどり着きたいと思っています。ON THE TRIP にしかない「匂い」がある文章で。

ON THE TRIPは「ライター」を募集しています


「ON THE TRIP」ってどんな会社なんですか?って聞かれると、ぼくはこう答えています。スマホで、5ヶ国語で、オーディオで、まるで博物館の音声ガイドのように、あなたの旅をガイドする。それが「ON THE TRIP」です、と。

でも、ぼくには「ガイド」を書いているという感覚はありません。「スペクテイター」のような雑誌をつくる気持ちで。最初は、そう考えていました。ひとつのテーマを深掘りする深度において、スペクテイターという雑誌は憧れであり目標です。ネットにあるまとめ記事でも、既存のガイドブックやパンフレットに書いてある情報をコピペするようなものでもありません。「ぼくたち」という主語を持ち、主義主張を持って書いていきたいと思っています。

でも、最近はそれだけでもない気がしています。

ぼくは、本に対する理解というものは体験のあとについてくるものだと思っています。自身が体験として知っていることを、本によって言語化されているのを目の当たりにしたときにはじめて体得して定着することができる。それが、本を理解するということ。逆に、背伸びをして読んだ本の中にどれだけいいことが書いてあっても、分かったような気にはなるけど、結局は分からないまま、すぐに忘れていってしまう。

ON THE TRIPのガイドは、旅先で「その場で」読むことを想定したメディアです。これは、より体験に近い文章が求められるということ。その場所にあるものをどう生かすかという意味でも、事前に読むことを想定したこれまでのガイドブックとは違います。もしかすると、ぼくたちがやろうとしているのは、「体験と本にある言葉の距離を近づける」ことなのかもしれません。「その場で」体得して定着して理解できるようなコンテンツで。旅は原体験の宝庫なのだから。

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ON THE TRIP で書くことに興味があれば、ぜひ上記の応募フォームからご連絡ください。

READIO ON THE TRIP vol.3。今回は、語り手である「ぼく」についての紹介でした。最後まで聞いてくれてありがとうございます。

ON THE TRIP. ぼくたちの旅は続く。

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