カウンターカルチャーに憧れて、リュックサックを担ぎたかった
きょうは、成瀬さんが ON THE TRIP にたどり着くまでの物語を聞きたいなと思っています。成瀬さんが旅をはじめたきっかけは何だったのですか?
成瀬:最初のきっかけは、中学生のときに「80日間世界一周」という映画を見たことです。「たった80日間で世界は周れるんだ」って親近感がわいて、世界が近くなった感じがしました。それから、よくある中高生の反骨精神というか、それがぼくは社会や親に向かわずに映画や本に向かいました。「イージー・ライダー」や「モーターサイクル・ダイアリーズ」を見たり、ジャック・ケルアックの「路上(ON THE ROAD)」や「ザ・ダルマ・バムズ」を読むようになって、カウンターカルチャーに憧れをもつようになったんですね。「ザ・ダルマ・バムズ」の本の中にある「リュックサック革命」は、いまでも大好きな一節です。たいてい一週間後にはゴミの仲間入りをしているものを消費して満足するよりも、リュックサックを担いだ1万人の若者が世界を渡ることで、新しい視点を持ち、未来の社会を変えていくだろう、という一節。ぼくもその一員になりたかったのかもしれません。
18歳、腕も折れ、腹を壊してベトナムトリップ ぼくは旅に救われた
成瀬:それからお金を貯めて18才ではじめてベトナムを旅しました。でも、出発の一週間前に腕の骨を折っちゃって。それでもギブスつけながら行きました。着いたらすぐに食中毒にもなって。3日ぐらい病院で寝たきりになりながら、残り10日でハノイからホーチミンまで南に下っていって。お腹も下したまま、バナナしか食べれずに。そんな散々な目にあったのにね、楽しかったんですよ。予想外のことが起きるって、こんなにおもしろいことなのかって。もちろん一人ですべて手配したのですが、その中で起きる困難を乗り越えたということが、とても小さなことではあるんですが成功体験になりました。
それまでに何かを一人でやるという経験は、なかなかありませんでした。たいてい準備されていて、答えも用意されています。何かを一人でやるということ。そしてそれができるということ。この経験で、ほんのすこしですが根拠のない自信が持てるようになりました。たかが一人旅なんかで大げさに、と思うかもしれませんが。
大学生活がはじまって、ありきたりな生活に嫌気がさしていた中で、自分でやっていこうと思い始めたんです。ぼくは旅によって救われました。
すごくわかります。旅にはある種の達成感があって、自信も育ててくれますよね。
成瀬:それから19才でアメリカを2ヶ月ぐらいかけて一周したんです。途中でボストンに留学をしている人の話を聞いて、ぼくも留学したいと思うようになりました。その傍らで、ベンチャー企業で働くこととなりました。うちは祖父も父も会社を経営していて、起業をするということが極めて身近にあったんですね。だから、いつか起業したいという思いは強かった。それでベンチャーのいろんな人と話したのですが、「海外に向けたサービスをつくろう」と言いながら海外に出たことのある人が少なかったりもして。もともと起業をするならグローバルなサービスをつくりたいと思ってたので、せっかく留学するなら、起業につながるところがいいなと。それで、ボストンにある起業学に特化したバブソン大学に留学したんです。
国家や会社ではなく、個人で世界につながること
成瀬:実際に行ってみると、日本人はぼくしかいなくて。起業学だからケーススタディもやるんですが、当時は韓国や中国の会社がどんどん大きくなってきていて。日本の会社が過去のものとして扱われていたりしたんです。それに対して「悔しい」というか、盛り上げていきたいなというベクトルが働いて。ぼくと同世代の人たちが、海外に対しての知見を高めることで、日本のプレゼンスも上がるんじゃないか。もっと海外に出ることで、世界とつながるんじゃないかと思うようになって。一方で、海外に出ることのロールモデルが少ない気がしました。それならば、ぼくが媒介者となって、海外で活躍する日本人の起業家やアーティストにインタビューをして、それを発信すれば、海外に対する関心も高まるんじゃないかと。そう思って「Nomad Project」というのを考えてみたんですね。
ノマドブームが起きる前から、成瀬さんは「ノマド」という言葉を使っていましたね。
成瀬:当時、バブソン大学で全米トップ10にはいる人気の授業があって、それがノマドを考える授業だたんです。ノマドというのは、ジャックアタリというフランスの経済学者が提唱した概念です。これからは国境や会社という枠組みを越えて、個人が事業を起こしていく時代であると。そんな中、自分はどういう事業をはじめるかという授業なんですけど、それがおもしろくて。ノマドという生き方って具体的にどういうものがあるのか。インタビューをしながら世界を周りたいと思って名前はNomadProjectにしました。で、バブソンを卒業してそのまま一年間、世界一周をしました。最初は東南アジアにいって、そこから30カ国。のべ500人ぐらいの方にお話を聞かせてもらいました。たとえば、サンフランシスコでジョブズに禅を教えていた秋葉老師や、バルセルナのサグラダファミリアで主任彫刻家をしている外尾悦郎さん。フランスのニースでお会いした松嶋啓介さんなど、たくさんの素晴らしい方たちにお会いました。今でもずっとお世話になっています。
大切なものはいつも目に見えないから。会うことの大切さ
ON THE TRIP も インタビューを軸にガイドをつくろうとしていますが、やはりインタビューに物語は宿るということなのでしょうか。
成瀬:「情報」は調べられますが、「物語」に込められた熱量や想いは会わないと分からなかったりします。ぼくはデジタル上でやりとりができてしまう時代だからこそ、直接会うことが大切だと思ってるタイプの人間です。1,000回メッセージするよりも、10回電話する方がお互い理解できるし、それよりも1度会う方が分かり合える。日本語で「気が合う」っていいますけど、「気」って目に見えないじゃないですか。でも、そこにはお互いの間に何かがあって、それは会わなきゃ分からない。大切なものはいつだって目に見えないから。インタビューは直接会ってやることですが、それによって、その人の人生をほんのちょっとだけですけど体験できる。それがぼくにとっては本当におもしかった。
そして、NomadProjectの旅を通して、「世界に出るではなく、いる。」という結論にたどり着いた、と。
成瀬:アフリカのキリマンジャロに登ったときに思ったんです。スマホで発信しながら旅をしていたわけですけど、標高4500mぐらいでスマホを開いたら、ネットがつながったんです。そのときに、ふと思ったんです。ぼくがNomadProjectで発信していたのは「みんなで世界に出ようよ」というメッセージだった。でも、こんな僻地でもネットがつながって、そこでFacebookやTwitterのやりとりもできる。なんか「世界に出よう」というのがしっくりこなくなり、むしろ「世界にいる」という感覚が近いと思って。どこにいても世界の素晴らしいものにふれることができるし、社会問題ともなればどこにいようが関係ないことじゃなくなる。そう思いながら日本に帰国したんですね。そして、「世界にいる」という感覚を体現するサービスをつくりたいと思って、「TABI LABO」というメディアを立ち上げました。
海外をまわればまわるほど、
日本が好きになった
成瀬:「世界にいる」という感覚を伝えるために、日本の人たちに海外のおもしろいこと、感動すること、社会的な問題も含めて、身近に知れるようなサービスをつくりたい。それがTABI LABOでした。一方で、留学とNomadProjectを通して2年半ぐらい日本を離れたことで、日本のことをあらためて好きになったんですよね。日本の神社やお寺に宿る美意識とか食文化や四季折々の風景とか。日本の中にも発信するべきことがたくさんあるのに、伝えきれてないことがたくさんある。だから、日本のことも海外の人に伝えたいなと帰国してからずっと思っていました。それも、ただの情報じゃなくて、物語として。前回話したような「旅先で出会う100人のうちの1人になれるようなサービスを作りたい」と。それが、ON THE TRIP。結局、ぼくは、旅のサービスをやりたいんですよね。
その場でリアルに体験しながら、自分ごと化されるガイド
世界の人にも伝えたい。それが成瀬さんにとっての新しい旅であり、ON THE TRIP なんですね。そして、これからは情報ではなく物語を伝えていくと。
成瀬:はい。もっと自分ごとにしたいんです。「文化財と私」といった距離が離れているものが、物語のあるガイドによって自分ごとになる。旅人は旅から何かを学びたいはずなんですよ。それがあることによって感性が刺激されるとか、何かの教訓を得たりとか、とにかく自分ごとにすることが大事だと思うんですよね。前回、個人的なアンコールワットの体験について話しましたけど、あの旅はぼくにとって自分ごとじゃなかった。今までガイドブックが事前にどこに行けばいいのか教えてくれるものであるとすれば、これからのトラベルガイドはその場に行ったときに、自分ごとにできるようなものではないか。身体性のあるコンテンツに価値が出る。そう思っています。
確かに情報は自分ごとじゃない。昔から物語というのものは自分ごとにするために存在するのかもしれませんね。
成瀬:小説とかもそうですよね。感情移入できるというか、没入感が違いますから。それをリアルの場に押し広げていきたいです。日本のことをもっと自分ごとになるように伝える。悪いイメージだったり、わけのわからないイメージだったりしたものが、リアルな体験を通して変わっていく。旅って絶対なくならないと思うんです。バーチャル的に見れるものもありますが、やっぱり体験したいし実感したい。
イヤホンにコンタクトレンズ。スマホの次の未来
成瀬さんが ON THE TRIP でのやりたいこと、その役割はなんですか?
成瀬:プラットフォームは変わります。その進化にあわせて、よりいい体験を提供したいという思いはあります。たとえば、スマホがイヤホンやメガネ、コンタクトレンズになったとき、生活の中にあるいろいろな体験が変わる。実際、スマホは遅かれ早かれなくなると思っています。そのとき、旅の体験はどう変わるだろう。リアルを最大限楽しむためのデジタルコンテンツはなにか。音声や映像などのコンテンツが、リアルの場所とひもづいて提供される。ARやMR。そこに興味があります。ぼくの役割は未来に向けて何をしかけていくかを考えながら、それに向けて現在は何をすべきか考えること。まずはスマホで、日本各地の文化財と連携してオーディオガイドをつくっていきたいと思っています。あと、ラジオをとってもやりたい。高校生の25%がラジオを聞いているというデータも出ていますが、旅とラジオは相性がいい。インターネットラジオをやりたいと思っていますが、ご一緒できる人は連絡いただけると嬉しいです。
いっしょに事業を立ち上げる、セールスを探しています
ON THE TRIPは「セールス(営業)」を手伝ってくれる仲間を募集しています。現在、文化財や自治体との連携も成瀬さんが担っていますが、どんな仲間がほしいですか?
成瀬:ON THE TRIPは全国の観光スポットと提携を進めていますが、提携先をもっと広げていくための人手が足りません。営業マンとして「飛び込みをする」という話ではなくて、今のON THE TRIPがどういう場所と提携するべきかを一緒に考えてくれる人。ぼくたちと一緒に、事業計画を考えてくれる人。創業してまもなくの、一桁メンバーとして会社の成長が見れる。一緒にON THE TRIPの成長の旅を楽しめる人を募集しています。興味があれば、こちらの応募フォームまでご連絡ください。
READIO ON THE TRIP 第2回。第1回に続いて、代表である成瀬さんにお話を聞かせてもらいました。次回も引き続き、コアメンバーである3人の物語を紹介したいと思います。