21世紀の
ロンリープラネットをつくる
ついに、はじまりましたね、ON THE TRIP。ぼくたちが構想をはじめたのは1年前。代表である成瀬さんにあらためて聞きたいのですが、「ON THE TRIP」はどんな会社ですか?
成瀬:ON THE TRIP とは、まるで美術館の音声ガイドのように、あらゆる旅先を博物館化する会社です。神社や仏閣、絶景、あらゆる観光スポットで、その場で楽しめるオーディオガイドをつくる。ぼくたちのアプリをダウンロードすれば、あなたのスマホが自分専用のトラベルガイドになるんです。
21世紀のロンリープラネットをつくる。成瀬さんはそう話していましたよね。それを思ったのには、どんな原体験があったのですか?
成瀬:カンボジアでこんな体験をしたんです。アンコールワットって、2日ぐらいかけてまわるじゃないですか。言いかたは悪いんですけど、「同じような仏像や建物ばっかりだ」と思ったんですよね。正直、よくわからなかった。でも、帰国して、アンコールワットに詳しい人に話を聞く機会があって。当時は世界最大の王朝だったとか、それができた理由とか。そういったことを教えてもらうと、見え方が変わったんです。同じように見えてたものが、まったく違うものに見えてきた。その物語というべきものを、もしも「その場で」聞けていたら。リアルタイムで体験していたら旅自体がものすごく変わっていたはずだと思ったんです。
ビート世代、
ON THE ROAD に憧れて
ON THE TRIP は「旅の途中」という意味ですが、最初は「その場で」つまり「旅の途中で使うガイドだから」という発想で生まれた名前でしたよね。でも、そこからどんな会社にしていきたいかを話し合っていくうちに、いろんな意味が積み重なっていきました。
成瀬:ぼくたちは1960年代頃のアメリカにいたビート・ジェネレーションが好きで。たとえば、「路上(ON THE ROAD)」を書いたジャック・ケルアック。彼らの時代の熱量というか、あの時代の感覚が憧れなんですよね。それも由来のひとつですが、もうひとつは、ぼくたち自身も旅の途中であるということ。旅をしながらインタビューをしてガイドをつくる。会社自体もそう。新しい仲間を探す旅でもある。そういう意味での「旅の途中」でもあります。
こうして話を聞いているぼくもまた旅の途中であり、ON THE TRIP のメンバーであるわけですが、ON THE TRIP の立ち上げメンバーについてはどう思っていますか?
成瀬:まずは、こうして話をしているコピーライターの志賀さん。一緒にやりたいと思ったのは、単純に言うと志賀さんのコピーが好きだから。以前アワードを取っていた「ニュースで、その国を嫌いにならないでください。」とか、ぐっと刺さりました。お互いに旅が好きなので、このサービスを構想するにあたって、国内、国外といろいろとまわりましたよね。次に、エンジニアの森上さん。ぼくは、あんなにコンテンツに熱いエンジニアに出会ったのははじめてです。なんだか ON THE TRIPのためのエンジニアって感じです。そして、デザイナーの太田さん。もともと紙のデザイナーだから表紙やイラストのデザインが得意で、ぼくたちのサービスにはピッタリだなと。ほかにもバックエンドを手伝ってくれている高橋さんに、アプリ開発の及部くん。翻訳の編集をしてくれているテイさん。ほかにも、10名以上のメンバーが手伝ってくれています。
エモさとキモさは紙一重。
いや、同じかもしれない
いわゆるガイドブックにあるような情報ではなく、物語を。というのは、ぼくたちのキーワードのひとつですよね。成瀬さんは情報と物語の違いをどう考えていますか?
成瀬:ON THE TRIP で伝えたいのは、情報(ファクト)ではなく、物語(ストーリー)です。ぼくの大切な人がよく言ってたんですが、SNSで流れてくる動画がどうも消費されるものに感じて、作り手として辛いと。どうしてそう思うのか、ずっと考えています。万人受けするようなファクトを並べて紹介するのも需要はあります。でも、そういうのって深度が浅い。消費されていく感覚に近いかもしれません。一方で、100人には「キモい」と思われても1人にはめちゃくちゃ刺さる。感情が揺さぶられる。そういうコンテンツの方が作り手もやりがいがあるし疲弊しない。エモさとキモさは紙一重。いや、もしかしたら同一語かもしれません。
成瀬:たとえば、 ON THE TRIP の新宿御苑のガイド。人によって反応がさまざまだったんです。ある人には刺さったり、別の人には共感を得られなかったり。でも、一部でも琴線に触れるものがあったら、そこからエモいものに変わる。ガイドの受け取り側の気分によっても感じ方はさまざま。でも、そんなガイドがあってもいいじゃないですか。旅するときは、常に自分が主人公のようなものです。旅人がその場に行った時に知りたいのは、何年にできたかじゃない。誰がつくったかでもない。なぜそれはできて、どうしてあるのか? それを知って自分がどう思うのか。そういった物語だと思うんです。だから、ぼくたちは情報(ファクト)よりもエモーショナルな物語(ストーリー)を紹介したい。一度きりの旅先で忘れられない体験を提供したいと思っています。
新宿御苑のガイドは、ぼくの独断で、ぼくが好きな「言の葉の庭」という映画を好きな人のために書きました。あなたはどう感じるか。ぜひガイドを体験してみてほしいと思います。
旅先で出会う100人のうちの、
1人になる
今日から ON THE TRIP の旅がはじまるわけですが、ON THE TRIP をどんなふうに育てていきたいですか?
成瀬:まずは日本の主要スポットのトラベルガイドをつくっていく。日本人だけじゃなく、海外の人たちにも物語を伝えることで、日本のことを少しでも理解してもらい、日本のことを好きになってもらえるといいなと思っています。それこそ、ぼくたちが世界を旅していたときのように。ぼく、思うんです。旅先で出会う人って、せいぜい100人ぐらいじゃないですか。屋台のおじさんとか、ホテルのスタッフとか、たまたまバスで隣り合った人とか。実は、旅で関わる人ってそんなに多くない。でも、旅人にとってはその100人が、その国のイメージをつくると思っていて。だからON THE TRIPは、その100人のうちの、1人になりたいと思ってるんですよね。ぼくたちのガイドによって、今まで知らなかった物語を知ることで、その国の見方が変わる。そうすることで、ニュースでしか知らなかった情報が立体化して、見え方が変わっていく。そんな体験を、まずは日本の観光スポットをタッチポイントにして発信していきたい。そして、それを世界に広げていきたいと思っています。
デジタルを使って、リアルな旅の体験をふくらませる
ぼくたちのガイドは、訪日観光客のためというわけではないんですよね。日本人とか、外国人とか関係なく発見のあるガイドをつくりたい。
成瀬:ぼくは旅が好きだから、旅人が喜ぶようなサービスにしたい。そして、土地の物語も形としてちゃんと残していきたい。ぼくたちのビジョンは、 日本中、世界中で、あらゆる旅のコンテンツを「場所」に根づかせること。そのために、まずは旅行ガイドをスマホでアップデートしたい。そしてスマホの次はAR。ぼくは、スマホはやがてコンタクトレンズやイヤホン、ウェアラブルになっていくと思うんですよね。そのとき、宮殿にいったら自分の目だけにマリー・アントワネットが出てきて案内してくれたり、耳元で囁くんです。「ここは私が住んでいたところだ」って。デジタルの中で楽しむのではなく、リアルを楽しむためのデジタルの使いかた。それが大切になっていくと思うんです。そのためにまず、あらゆる旅先の物語を可視化していくこと。物語は目に見えないものであり、消えていっちゃうものでもあるので、文章や写真、音声、デジタルを使ったあらゆる手段でコンテンツ化していきたいと考えています。
そのはじまりの一歩が、2017年5月24日。きょうリリースしたアプリですね。
成瀬:ぜひアプリをダウンロードしてみてください。たとえ行ったことがある場所でも、その物語を知っている人は少ないかもしれない。もしよかったら、ぼくたちが好きだと感じた物語を楽しんでほしいと思います。
READIO ON THE TRIP 第1回は、代表の成瀬さんにお話を聞かせてもらいました。ぼくたちはこれから日本中でコンテンツをつくる旅に出ようと思います。