国内の寺社、芸術祭や美術館と連携した、スマホでGPSで、多言語で楽しめるオーディオガイドを手掛けるON THE TRIPが、新しいプロジェクトを立ち上げました。
それに伴い、谷家衛さん、西井敏恭さんが新しくON THE TRIPのアドバイザーにジョイン。新プロジェクトは、日本の文化財の入館料は安すぎる、それが故に文化を伝えきれていないという問題意識を発端に生み出されたもの。ここでは谷家さん、西井さんとの対談形式でそのプロジェクトの全貌をご紹介します。
すべて無料。
お寺や美術館、文化施設のオーディオガイドつくります
成瀬:サービスをリリースして1年半。さまざまな施設の公式ガイドをつくってきましたが、特にお寺や美術館の人たちと話す中で日本の観光課題も見えてきました。その一つが、文化財の入館料が安いが故に設備投資ができていないこと。それ故に、多くの人にその魅力を伝えることができなくなり、修理保護することもままなりません。
そこで、ON THE TRIPからの提案。
文化財に向けたオーディオガイドを無料で制作し、その代わり入館料の中にオーディオガイドを組み込んで入館料をあげる取り組みを実施しませんか。施設に訪れた観光客は誰でも無料でオーディオガイドが使える仕組みで、ガイドの運営費は入館料をあげた分の利益でレベニューシェアするものです。そのために多言語のオーディオガイド制作はもちろん、施設ポスターやMAPなどの各種ツールリニューアル、ウェブ制作、デジタルマーケティングなどもすべてON THE TRIPが無料提供します。
社寺や美術館が単体でオーディオガイドアプリを作るのはコストがかかります。スマホで作らずとも音声ガイド専門端末の購入コスト、貸し出しのオペレーションコストも馬鹿になりません。それに自社で、多くの人の心に響くクリエイティブを作ることも難しい。その課題を新プロジェクトとともに解決します。実際にいま、いくつかの場所でこの事例をつくりはじめています。
(※こちらは10社限定キャンペーン。期間限定での無料制作のため、定員になり次第終了となります)
入館料はたとえば今まで500円の場所なら800円に設定し、その代わりオーディオガイドを無料で誰でも使えるよう提供してその場所の魅力を伝えます。元との差額である300円の収益を、お互いにシェアするという流れ。それに合わせ、綿密な取材の元にガイドを作るのはもちろん、施設内での展示や配布パンフレット、マップなどのツール、ウェブもリニューアルした上で、さらにその場所に合わせた体験も制作します。文化財には誇るべき物語があるにもかかわらず、そのことをちゃんと来場者に伝えられていません。だから体験がいまいちに。僕たちは ON THE TRIP で、その体験をアップデートするお手伝いをします。
文化にこそ投資を。
入館料をあげて、資金を集める必要がある
谷家:ヨーロッパに行くたびに感じるんですが、日本の文化財、とくにお寺や神社の拝観料は本当に安すぎ。一方で拝観料が高いヨーロッパの教会や遺跡は良くメンテナンスされていて、そこにある歴史、あるいは文化の資産価値を大切にしています。仕事がら海外をめぐることも多いのですが、世界の中でも特に膨大な文化アセットを持っている国こそ日本。独特な自然や宗教観から生み出されたお寺や神社、他国と違う文化で熟成した美術。GDPには換算できない文化アセットが僕たちにはあります。でも、このアセットは経年劣化していきます。去年も多かったですが、日本は天災が多い。
成瀬:2018年は特にそれを感じた人も多いはずです。地震も、また台風の被害も甚大でした。提携している一つのお寺では屋根が飛んでしまいそれを直すのに数千万円がかかり、またある京都の神社では倒木が激しくひとつのお社が壊れる被害もありました。
谷家:それで文化財がなくなってしまうのは、本当にもったいない。壊れたら修理費用がかかるし、天災に耐えうる設備投資だって必要。改めて、日本の文化は世界にとって大切な資産だという認識を持つ必要があります。たとえばシンガポールは、あまり歴史がありません。だからモダンアートにも力を入れていて、たくさんのアーティストを集めています。それにはお金もかかるので入館料は高く設定しているのですが、同時に自国の住民には値段を安く設定して、差別化もしているんです。それは現地の人たちに勉強して欲しいから。自分たちの国の文化を深く知り、誇りを持って欲しいと思っているんです。
成瀬:東南アジアの寺院も同様に、地元の人には安く、観光客の人には高い値段を設定しています。むしろ、二つの価格体型を持っている方がスタンダードなのかもしれません。地元の人はなんども日常的に訪れる可能性がありますが、観光客、特に海外からの人たちにとっては非日常。彼らは飛行機で何万円もかけてきます。だから数百円の差で入るか否かを決めるのではなく、そこに何があるのか。どんな特別な体験できるのかの方がよっぽど大事。
谷家:本当にその通りで、僕たちは日本に何を期待されているのか知らないといけません。特にいま、世界各地で東洋的な価値観が見直されています。日本の禅とかはまさにその一つ。僕たちはこの文化にこそ投資するべきだし、そのために文化財の拝観料をあげてちゃんとお金をとっていくべき。海外では2000円、3000円は当たり前なのに日本では500円、600円がほとんど。
今の日本の状況は、入館料が安いがために設備投資ができない状況です。すると、多くの人にその魅力を伝えることができなくなってしまうし、修理保護することもままなりません。そんな現状もあってか、いま文化財に訪れる人のほとんどはスマホでシャッターを切るのがほとんど。物見雄山の旅も楽しいけれど、そこにある物語、文化、歴史を知ることで見えないものが見えきます。とくに日本の文化には、知ると知らないでは世界の見え方が変わる衝撃があります。この衝撃を伝える努力を、オーディオガイドの力でお手伝いすること。そうすれば価格をあげても体験価値が伴う。これこそがON THE TRIPに求められています。
ヨーロッパでは、
美術館がデジタルと融合しはじめている
西井:谷家さんがヨーロッパの文化財の話をしていましたが、この前、オランダのゴッホ美術館に行ってきました。そこでビックリしたのが、入館するのに事前予約が必要だったこと。美術館の入り口に行ったけど当日券は買えませんでした。だからその場で自分のスマホを使ってネット予約して、翌日行ったんです。これ面倒だな、って最初は思ったんです。でも他の施設でもそれが当たり前になっていて、徐々に慣れていきました。
ん、これってもしかしたらホテルの予約体験と同じじゃないか、と思いませんか。10年前の一人旅ではホテルに入るのも、ガイドブック片手に目星をつけてまわり、現地で1時間くらい探し回って泊まってました。でも今ってホテルはどれも事前予約。直接行って泊めてください、ってほとんどないですよね。
ユーザー的にも時間の節約になるし、何よりネットで口コミが見えるから安心。それに施設側のオペレーションコストも圧倒的に下がっています。美術館ならチケットカウンターで人の配置も必要ないし、事前決裁のキャッシュレスなので現金の管理も必要なし。それに、すべて管理されているから混み具合も分散化されていて、ゆっくり見ることができました。
そこにはスマホアプリのオーディオガイドもあって、それを聴きながらじっくり巡れるんです。ゴッホの生涯を聴きながら、どういった心理状況でこの絵が描かれたのか。それを聴けたことでまるで映画のような、ドラマのような体験ができました。3,000円くらいしたけど、その価値があったと思います。
谷家:僕もゴッホ美術館が大好き。じつは僕が創業した「THEO by お金のデザイン」の関わりもあって、以前ゴッホの弟テオさんのひ孫さんに、招待されたことがありました。
一同:すごい(笑)
谷家:実際にひ孫さんに案内をしてもらって、物語を聴きながらめぐるとさらに愛着が湧くようになりました。普段あまりお土産とか買わないのに、話を聞いた後だとたくさん買っちゃった。気に入った絵のポストカードはもちろん、気づいたら老眼鏡を20個も(笑)。物語があると、物欲もかきたてられるんだと思いますね。
志賀:きっと、ゴッホの物語の中で「老眼鏡」が印象的に語られていたからですよね? まさに、ぼくたちもゴッホの老眼鏡のような「旅の記憶をとどめる装置」を作っていきたいです。実際に京都の三千院では、ガイドの最後に3年後の自分に向けた手紙を書いてもらい、ガイドの物語と絡めて自分で書いた手紙が「お守り」となる体験をつくっています。そういうアナログな物がもらえると入館料が上がっても納得してもらいやすいかもしれない。だから、デジタルなガイドを作るだけではなく、お土産をふくめた旅の記憶が宿るアナログな装置を施設と一緒に開発していきたい思いがあります。もっとシンプルなところでいえば、本。
「旅という映画のパンフレット」になればいいなぁと思って実際に作っています。映画館に待ちわびた映画のパンフレットがあるように、美術館の出口に感動した企画展の図録があるように。記憶にとどめる装置としてのガイドのアナログ版を売る。「人は思い出にはお金を払う」と誰かが言っていましたが、逆にいえば、本として持っておきたいと思ってもらえるような旅の物語をつくりたいと思います。
モノからコトへ。
旅3.0時代における、文化財のあり方とは?
成瀬:西井さんはマーケター界で知らない人はいないほど有名。そんな西井さんに今の日本の文化財に足りないものをマーケティング視点で聞きたいです。
西井:ロンリープラネットの後ろの方に載っているコラムあるじゃないですか。その国の宗教観みたいな話。旅を続けていくと、本当に面白いのはそういったコンテクストだと気づいたんです。今や地図はGoogle Mapだし、行き先の情報は口コミサイト。でもそこに行ってその場を彩ってくれるのは物語なんです。
ぼくたちのおじいさん世代は、一生に一度のハワイ旅行のためにパッケージツアーで100万円かけて訪れるスタイルでした。それを旅1.0とすると、その次の旅のスタイルは、ウェブでチケットやホテルを自分で予約して行き先をカスタマイズするもの。これが旅2.0。ではこれからの旅3.0は何か。いま移動が当たり前になっているから、目的地にいくということ自体が日常です。だから移動そのもののプロセスを楽しんだり、そこにしかない非日常的な体験を探したりしています。僕自身、2003年に世界一周をして、そのあとに2014年にも旅をしました。一番最初の旅の時って、たとえばウユニ塩湖に行くことが目的で、それを見るのが楽しかったんです。でも、今はウユニ塩湖と自分が写る写真を面白く撮って、それをSNSにアップすることを楽しんでます。SNSでアップする、という行為をしたいがためにウユニに行く。その場所に行くその「もの」自体はゴールじゃなくなり、そこで何を得られるのか、自分たちは何ができるのか。そこで体験できる「コト」自体が求められています。
だから、それぞれの観光地はどんな特別な体験を提示できるかを考える必要があるんです。映画のような世界を体験できたり、歴史の中に入り込めたり。そこだけの独自なレイヤー。それには物語が必要だし、新しいレイヤーを持った観光文化財の姿こそON THE TRIPでつくっていきたいですね。
成瀬:そのオリジナルなレイヤーとは、その場所のルーツ、起源を見つけていくことなのだと最近強く感じています。アントニ・ガウディは、「オリジナリティを見つけるためには、オリジン、つまり起源に立ち戻ることだ」と言っています。ぼくたちの役割は文化財のルーツ、魅力、そこに根付く「光」を旅人の視点で発見し伝えること。観光とは、光を観ることなのだということを体現するようなガイドをつくっています。
スマホ、音声、ビジュアルで。
物語のシャワーを浴びせたい
志賀:ぼくたちが、どんなガイドを作るのか。それはアプリで見ていただくのがいちばんです。たとえば、京都や奈良の寺社仏閣、伊勢神宮、東京タワーなど。どのガイドも実際に市や施設との正式な連携のもと制作してきました。
いわゆるオーディオガイドでしょ、と思って使ってみると驚いてもらえるのでは、と期待しています。
ぼくたちのガイドでは、看板に書いてあるような情報をなぞるようなことはしません。どういうことか。たいていの施設には順路があって、見どころを順番にめぐっていくようになっています。が、それぞれに置いてある看板やガイドブックの情報は“点”でばらばら。
誰々がいつ建てたというような話が散らばっているだけのところが多いように感じています。そういう施設はやりがいがあります。ぼくたちのガイドでは、時に時系列を追いかけるようにして、時に主人公となるべき人物を通して、やり方はいろいろですが、次へ歩くたびに話がつながって、旅が深まっていくような構成に気をつけています。一言でいえば「点と点を線にする」。話と話がつながって旅に物語を感じるように作っています。これは、コンテンツづくりにおいて大切にしている3つの要素のひとつです。残りの2つはまた別の機会に。
成瀬:ガイドの内容が高く評価され、実際京都では15社寺の公式オーディオガイドを制作しています。中でも祇園にある建仁寺では、毎日たくさんの人にガイドを使ってもらっています。また昨年末から大原にある三千院では、ガイドのフィナーレで3年後の自分に手紙を書くという体験をプロデュースしました。この体験も口コミで徐々に人気になっています。僕たちの紹介するのはその場にある物語。
情報は消費され、古くなったら新しくする必要がありますが物語は普遍的。そして物語には人の感情を揺さぶる力があります。文化財に訪れる観光客へ、物語のシャワーを浴びせたいですね。
それは動くアトリエ。
バンで各地に滞在し、ガイドを制作
成瀬:ちなみに、僕たちのオフィスはマイクロバスを改装したバン。このバンで日本各地、ガイドをつくる現場に滞在しながら取材しています。面白いガイドをつくるには、何よりも自分たちがその場で楽しむことが大事。だから、移動式オフィスにしました。まるでアートインレジデンスのように、現場に滞在しながら作品(ガイド)を作り、そこに残しています。カメラマンは本間寛さん、デザイナーや音楽クリエイター、映像作家などもガイドに合わせたチームで制作しています。
志賀:バス生活も2年目。奈良、沖縄、富士、伊勢、新潟、宮崎、高知などなど、たくさん移動しましたね。果たして次はどこにいくことになるのか。バス生活の話は長くなるので、今回の企画に申し込んでくれた施設の方のもとへバスで駆けつけてから話しましょう。笑
成瀬:そうですね。笑 今は日本のみですが、谷家さん西井さんと一緒にサービスを作るということはつまり、国内だけで終わらせないという意気込みでもあります。つまり、バンも海外へ、なんてことも考えています。
日本の文化の魅力を世界に届けるために僕たちができること。
みなさんとできること。
文化を、物語を世界へ発信したいと本気で思っている人たちとともに、挑戦したいと思います。
興味を持ってくださった方は、ぜひ上記応募フォームからご連絡ください。
谷家衛
約30年の金融キャリアに加え、約20年エンジェル投資に取り組み、自身の起業の経験も通じてスタートアップの創業支援やNGO/NPOへの参画を積極的に実施。ソロモン・ブラザーズでは、アジア最年少のマネジングディレクターに就任し日本及びアジアの投資部門を統括。
チューダー・キャピタル・ジャパンには創設メンバーとして参加し、同社のMBOにより日本で先駆けの独立系オルタナティブ運用会社であるあすかアセットマネジメントやDBJとのジョイントベンチャーでプライベートエクイティファンドのAD Capital (現マーキュリアインベストメント)を創った。 創業支援は構想から参画し共に創るスタイルで、日本で初めてのオンライン生命保険(ライフネット生命)の立ち上げや、いち早くヨガに注目してその普及に貢献したスタジオヨギー、科学に基づきWell-beingを高めるCampus for H、日本初のロボアドバイザリーお金のデザインなどがある。
また、IDEOと共にCorporate Venture Capital のD4Vを立ち上げた。 NPO、NGOは日本初のインターナショナルボーディングスクール(UWCISAK)の発起人代表、 ヒューマン・ライツ・ウォッチの東京委員会Vice Chair Person、アジア・パシフィック・イニシアティブ、Endeavor Japanの理事を務める。東京大学法学部卒業。
西井 敏恭
株式会社シンクロ代表取締役社長および、オイシックス・ラ・大地株式会社 執行役員CMT(チーフマーケティングテクノロジスト)としてサブスクリプションモデルのEC戦略を担当している。1975年福井県生まれ。2001年から世界一周の旅に出る。WEBサイトを構築しての旅行はサイトが大人気になり帰国後、旅の書籍を出版。インターネットの面白さに気づきECの世界へ。前職は株式会社ドクターシーラボにてデジタルマーケティングの責任者を務め、2013年末に退社。その後再度世界一周の旅をして、起業にいたる。訪問国数は約140カ国ほど。
ON THE TRIPとは
お寺や神社、美術館などの文化財や街にある物語を、地図にマッピングされたスポットをめぐりながら楽しむオーディオガイドアプリ。一つ一つのガイドはまるで映画や小説のような心動かす作品であり、ガイドを聴くことで旅先の理解が深まり、旅の体験がふくらむ。訪日観光客も利用できるよう、 日本語のほか、英語、中国語にも対応。
ON THE TRIPのオフィスは日本各地を巡るバン。ガイドは現地にバンで滞在しながらガイド制作をする。バンオフィスはアート作品として、大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2018に出展。
ON THE TRIP. ぼくたちの旅は続く