階段を昇りながら、東京タワーができるまでの物語を追体験する。

READIO ON THE TRIP vol.13

2月2日より、東京タワー監修のトラベルガイドをリリースしました。東京タワーの大展望台(メインデッキ)まで続く約600段の外階段を昇りながら、東京タワーの歴史を楽しむガイドで、階段の途中にはガイドと連動したツールが置かれています。

高さ150mの展望台まで、階段で昇っても15分くらい。昇り終えてから見る東京の景色は、45秒でいけるエレベーターのそれと比べてみると格別なものになるかも。ぼくは今回のこのガイドは、ON THE TRIPの思いを体現するものになったと思っています。

いままで物見遊山的に楽しむだけだった場所が、ガイドの導きによってドキュメンタリーに変わる。東京タワーの歴史は、当たり前ですが物理的にも下から積み上げて作られています。10m、50m、100m...と、上へ上へと積み上げてつくられました。その過程では、たくさんのドラマがある。その物語を、実際に外階段を昇りながら楽しむ。それは、歴史を登っていくようなもの。ナレーションも当時を想像できるような迫力ある音声を五十嵐さんが入れてくれました。

このガイドを制作したコピーライターの志賀さんと、東京タワーガイドに込めた思いを紹介したいと思います。

物語を聴いたなら。
東京タワーにドラマが生まれる

──志賀さんがこのガイドに付けたタイトルは、「記憶の階段をさかのぼる旅へ」。ぼくはこの企画をとても面白いと思いました。そもそも、この企画はどのようにしてつくっていったのですか?

志賀:「東京タワーって外階段でのぼれるんだ」ということを、ぼくは知りませんでした。東京に住んでいたにもかかわらず、です。東京タワーについて調べはじめて、最初に驚いたのが、そのことでした。

人生で3度目ぐらいかなぁ。久しぶりに東京タワーに行ってみると、展望台からの景色は壮観ではあるのですが、現代においては六本木ヒルズや世界貿易センター、ともすれば、高層マンションでも見られる景色なんですね。ある意味では珍しい景色ではない。しかも、展望台からの景観を案内するアプリがすでに存在していました。それもあって、外階段を使ったガイドが作れないかなぁと考えはじめたんです。

一方で、ぼくはvol.3で最後に書いたようにON THE TRIPでは「体験と近い文章とは何か」ということをテーマに書いていきたいし、そこがガイドブックやウェブメディアとの違いになると思っています。

東京タワーの「プロジェクトX」的な物語はすでに何度も本や映像になっている中で、ON THE TRIP にしかできないことは何か。それを考えていたときに思いついたのが「外階段をのぼりながら、東京タワーができるまでの物語を追体験する」という企画でした。

物語を知ったとき。
目の前の景色が変わって見える

──このガイドは、どのように楽しんだらいいですか?

志賀:アプリをダウンロードして「まえがき」を読んだら、まずは「フットタウン屋上」へ。そこで最初のガイドを聞き終わったら、次のガイドを聞きながら外階段を昇りはじめる。そのように、ガイドで言われる通りに動いてみてほしいです。

たとえば、外階段の「0段から111段」を昇りながら聞くガイドとして、東京タワーの工事が停滞してしまったエピソードを紹介しています。その理由は、塔脚部分に「ある問題」があったからなんです。ある問題とは何か。その物語を聞き終えるころに111段目にある踊り場に到達する。すると、目の前にその塔脚があらわれるわけです。すると、ただの塔脚が物語を含んだ塔脚になる。物質的な塔脚に感情移入できる何かが生まれているかもしれない。


そんなことを期待しながら、259段目、355段目、451段目、そして、展望台。と、それぞれの到達点で見る景色に注目してみてほしいです。そして、展望台に到達すると同時に、ガイドで語られる「東京タワーができるまでの物語」も「完成」に到達します。そうして見た景色は、エレベーターで昇って見た景色とは違うものになる、と、感じてもらえたら嬉しいなぁと思っています。

ガイドに必要なのは、共感なのかもしれない

──ただ景色を楽しむ旅ではなく、その奥行きを楽しむガイドになったと思います。でも単に歴史を伝えるだけでは面白くない。人の感情に響いてこそ、ドラマが活きてくる。心に響くようなガイドって、なんでしょうかね。よく議論することですが。

志賀:この前、スターウォーズの新作を見たんですが、映画の中に「失敗から学ばねばならない」という印象的な言葉が出てきました。なにも目新しいことを言っているわけではないんです。それなのにどうして感動したんだろう。そう考えてみると、そのセリフが生まれるまでの物語構成によって、ぼく自身の過去が呼び起こされていたからだと思うんですよね。

そう思ったときに、これまでのガイドは「旅人が知らないことを、知らせる=埋める」でしかなかったように感じたんです。トラベルガイドである以上、それは間違ってはいないのですが、なにかこう、感動が足りない。その前にあるべき共感が、メッセージに到達するまでの物語構成が足りないのかもしれません。

詳しくは自分のブログにメモ書きしたのですが、ひとことでいえば、「共感のち、メッセージ」。まずは、共感してもらうこと。そして、その場所が現代に問いかけているメッセージってなんだろう。それを見つけること、考えることが感動を生むガイドに必要なのではないかと考えはじめています。ガイドに感動なんて求めてないという人もいるでしょうけど、もうちょっとだけ「味濃いめ」というか、さじ加減をちょっとだけ変えられたらなぁと、ぼくが書くガイドにおいては思うんです。

自分にとって「塔」とは、どういう存在なのか?

──ひとつひとつのガイドにメッセージを持たせること。これは僕たちのガイドの個性にしていきたいですね。今回の東京タワーのガイド。ここで一番伝えたいことはなんですか?ガイドからのメッセージがあれば。

志賀:ガイドを書きはじめる前に、東京タワーの歴史本を3冊ほど読んで、江國香織やリリーフランキーの東京タワーを読んで、三丁目の夕日やストロベリーショートケイクスを観て、東京タワーをモチーフにした色々な音楽を聞いてみたりしました。

それらに共通するものは何かなぁ、ぼく自身が共感するのは何かなぁと考えていて、行き着いたのは、東京タワーは記憶の「宿り木」であるということでした。

「塔」って、ぼくたちにとってどういう存在なのだろう? ぼくにとって、それは「記憶のセーブポイント」なのかもしれないと思ったんです。人間は年をとり、変わっていきます。だからこそ、人は変わらないもの=東京タワーを求めるのかもしれない。宿り木として、消えていく過去の記憶を留めておくものとして。

エッフェル塔のあるフランス人でなくても、日本中、世界中の人に「東京タワーのような存在」がそれぞれの故郷にあるはずなんです。それは、工場の煙突かもしれないし、モスクの頭の部分かもしれない。自分が過去に想いを宿してきた、自分だけの「塔」とは何だったのか。その存在を思い返してみてほしいと思いました。



ぼくの場合は、実家の窓から見えた「太陽の塔」です。その存在を思い返してみると、小学6年の大阪に引っ越してきたばかりで不安だった自分、中学2年の部活のレギュラーが取れなくて悔しかった自分、過去のいろんな自分が、同じ塔を眺めていた眼差しを思い出せるような気がするんです。その眼差しが物差しになる。だから、人は塔を見上げるときに、それまでの自分を記録しているのではないか、と。とはいえ、これはあくまでぼくの物語。あなたにとって、塔はどんな存在ですか? そんなことを考えるキッカケにしてもらえたら嬉しいなぁと思っています。


──ぜひこのガイドを片手に、東京タワーの外階段をのぼって欲しいと思います。そしてそれぞれが心に存在する、思い出の塔のことを考えてもらえたらいいですね。家族で、カップルで、友達と、あるいは一人で。故郷から遠く離れた場所で昔の懐かしい思い出にふけってみる。それは、自分自身の記憶の階段をさかのぼる旅。東京タワーではそれを考えるのにふさわしい場所なんだと思います。

記憶の階段をさかのぼる旅へ

「あ、東京タワーだ。」

そう、声をあげる人がいる。ある人は「東京に来たんだ」と決意を新たにし、またある人は「東京に帰ってきたなぁ」と息をつく。その瞬間に、ぼくたちはそれまでの人生を記録しているのかもしれない──

東京タワーは1958年に完成した高さ333mの総合電波塔。当時は自立鉄塔として世界一の高さを誇り、現在は日本で二番目に高い建物。メインデッキ(旧:大展望台)の高さは150m、トップデッキ(旧:特別展望台)は250mに達する。

そんな東京タワーに「階段」で昇れることを知っているだろうか。フットタウン屋上からメインデッキ=展望台まで約600段。15分もあれば昇れるはずだ。ここでひとつ、提案したいことがある。このガイドを聞きながら階段で昇ってみてほしいのだ。ただし、階段はいつも開放されているわけではない。外階段ゆえに天候にも左右される。その場合は隣接する「芝公園」で東京タワーを見上げながらガイドを聞いてみてほしい。もちろん、あなたが既に展望台にいる場合は「展望台」を歩きながら聞いてみるのもいいだろう。

ぼくたちがガイドするのは東京タワーが完成するまでの物語。その時代、東京タワーは「LIVE」だった。戦後の焼け野原から立ちなおりつつあった日本が、世界一の高さ333mを目指す。カンカンカンと鉄を打つ音が空に響き渡り、1mずつ、鉄塔が日増しに立ち昇っていく。当時を生きる人たちは、その様子を見上げながら、俺も、私も、と自分の心を重ねたのだ。

しかし、当時の様子は目に見えない。だからもう一度、東京タワーの階段を昇りながら、東京タワーができるまでの物語を追体験できないだろうか。あのときはまだ生まれていなかった人も、あのときの気持ちで。

【!】昇り階段の営業時間
土・日・祝日11:00~16:00
※雨天・強風時は中止となります。
※メインデッキ=展望台までの展望料金が必要になります。
※イベントによっては上記外でも開放している事があります。
※階段の入り口は「フットタウン屋上」にあります。
※一度展望台を降りると再入場はできません。

東京タワーのガイドはこちらから

ON THE TRIP. ぼくたちの旅は続く。

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