ON THE TRIP × 中目黒 蔦屋書店
2017年10月31日より、中目黒 蔦屋書店内に、ON THE TRIPと連携した常設コーナーを置かせてもらえることになりました。ぼくたちにとって、とてもありがたいお話ですよね。
成瀬:きっかけは、蔦屋書店に勤めていた友人と書店の「旅コーナー」を盛り上げようという話になったこと。せっかくなら、ぼくたち ON THE TRIPと一緒に書店も旅している感覚を味わうことはできないだろうか? という提案からはじまりました。ぼくたち自身がバスに乗って旅をしているため、その旅を疑似体験できたら面白いのではないか? 取材の時に利用した本を紹介することにより、その場所についてもより詳しくなれるのではないだろうか、と思ったんです。
蔦屋書店といえば、ぼくは、バスの旅をはじめるまで湘南に住んでいたので「湘南T-SITE」によく通っていました。蔦屋書店は旅の本がとても充実しているので、蔦屋書店をデータベースにして、ほとんどの原稿を蔦屋書店で書いていました。だから、今回のコラボはとても嬉しいです。成瀬さんにとっては、なぜ「蔦屋書店」だったのですか?
成瀬:蔦屋書店は、いまや旅先を決めるためのハブになっています。カップルで、あるいは一人で、次の旅先を決めるために、本を散策する。そして、地方や海外から来る観光客にとっては、蔦屋書店は旅の目的地にもなっています。そして、彼らはここで出会った情報を元に次の旅路も決めているんです。つまり蔦屋書店は、次の旅先を考える上での、観光案内所の機能を果たしているのではないかと、思っていました。
中目黒の蔦屋書店は中目黒駅に直結していて、全国で最もアクセスしやすい蔦屋書店かもしれませんね。店内もとてもコンパクト。観光案内所として、という話もわかる気がします。
成瀬:中目黒にはエッジーなお店もたくさん集まっています。それは、デジタル志向とは真逆のアナログ志向。カセットテープ専門店や、フィルムカメラのお店、minimalismを追求するショップなど。そういった中目黒を紹介するガイドもON THE TRIPで制作しているため、相性もいいかと思いました。
ON THE TRIPが、バスで旅した土地の刺さった本を紹介
中目黒 蔦屋書店での連携は、ON THE TRIPの紹介だけではありません。ぼくたちがバスをオフィスにして日本各地を1-2ヶ月ごとに転々としている中で、その土地の物語を知るために参考にした書籍を展示、販売しています。第1弾として、まずは「TOKYO」から。
ON THE TRIPは「大地の芸術祭」を別にすれば、TOKYOからガイドを作りはじめました。現在は「新宿御苑」「浅草寺」「清澄白河」「中目黒」などのガイドがあります。成瀬さんが選書した本については、どういう理由で選んだのですか?
成瀬:たとえば、「People Make Places」という本は、日本在住のイギリス人がつくった、TOKYOのガイドブックです。前から思っていることですが、東京の新しい姿を知るには、新しい支点に立って、別の視点から見ることが必要だと思っています。そのきっかけの一つは、ソトモノでセンスのある、チャールズさんのような方が案内するTOKYOなのだと。ここで紹介されているのは、東京に住んでいる多くの人ですら知らないようなところばかり。その視点があったのか!と目から鱗です。それに、写真のセンスが、抜群にいい。これを見るだけでそこに行きたくなるようなガイドでした。座って、コーヒーでも飲みながらゆったりと見たいガイドブックです。
ガイドを作るための参考資料というだけではなく、色々な意味で影響を受けた本というのが選書の特徴ですね。
成瀬:ちょうどぼくたちも、その場所のArea Guideをつくっているのですが、それは積極的に外国人にも書いてほしいと思っています。いま出ている中目黒、渋谷、コーヒーガイドはすべて日本在住の外国人が書いたものです。
ぼくは、川端康成の「浅草紅団」を選ばせてもらいました。ぼくは川端康成が生まれ育った茨木市で育ち、高校も川端康成と同じ高校でした。個人的に身近に感じている大作家ですが、はじめてちゃんと読んだのは「雪国」。
成瀬:「国境の長いトンネルを抜けると、そこは雪国であった」ですね。
はい。ぼくはずっと青森あたりが舞台だと思い込んでいたのですが、雪国の舞台は越後湯沢なんですよね。「大地の芸術祭」のガイドを作るために通っていた越後妻有、そこに行くにはまさにここで描かれている長いトンネルを通るわけですが、その体験を経てから読むと、まるで違う本に出会ったようでした。
なんていうか、それまでは親指と人差し指で円を結んだぐらいの小さな穴から彼の世界を覗き見ているようでした。でも、実際に新潟という土地を旅した後では、視界は360°に広がり、体験型の本に変わったような気がするんです。
そういう意味では、ここで選んだ本に関しては、旅をする前だけでなく、旅をした後でも読んでほしい本です。「浅草紅団」は、雪国を書くより前の若き川端康成が、実際に浅草で暮らしながら書いた本。まさに、ぼくたちのようにその土地に身を置いて書いた本なんです。
成瀬:ぼくは、ここで紹介している本を参考に、旅に出て欲しいと思っています。それも、ただそこにいくのではなく、事前にテーマをもったり、興味関心ごとを持っていくことを薦めたいと思います。その物語こそが、旅先の体験をぐっと深くすると信じています。ぼくたちがここで紹介する本が、そのきっかけになるかもしれません。そして、この展示をとおしてON THE TRIPを知ってもらい、現地にいったときに、ぼくたちがつくる寺社のガイドや、Area Guideを現地で聞いてもらえるとうれしいです。物見遊山的な旅が、その土地の光を観る、観光へと変わると思います。
旅と本の関わりというのは密接ですよね。ぼくは新宿御苑のガイドを作るにあたって「心象風景」をテーマにしたいと決めました。そう思っていたときに、偶然、手にしたのが東山魁夷の本でした。彼の絵はあまりに有名ですが、文には触れたことがなかった。でも、読んでみると、ぼくが「心象風景」というキーワードを持っていたがゆえに、めちゃくちゃ刺さった。ぼくはガイドを書くことも忘れて彼の本を読みあさりました。でも、新宿御苑のガイドを書こうと思わなければ、彼の本をこんなにも面白く読めなかったかもしれない。そういう面でも、ぼくたちの旅と本との出会いというのは運命的ですよね。ぜひ多くの人に、このコーナーからそんなキッカケが生まれたらと願っています。
ぼくたちはオフィスとして改造したバスに乗って、日本各地を転々としていく予定です。現在は奈良にいるので、第2弾のテーマは「NARA」になることでしょう。ぜひ、中目黒 蔦屋書店に来るたびにチェックしてみてほしいと思います。
最後に、「ON THE TRIP × 中目黒 蔦屋書店」として店頭に掲げた言葉をここでも紹介しようと思います。
その物語は、旅の体験をふくらませる。
ON THE TRIP.
“旅の途中”になにを読む?
一度、読んだだけなのに忘れられない本がある。
たとえば、それは旅の途中で読んだ本。
自分と向きあう旅の時間に、ひとり、本と向き合う。
伊豆を歩きながら「伊豆の踊り子」を。
ユーラシア大陸を横断しながら「深夜特急」を。
あるいは、旅先とは関係がない本なのに、旅する気持ちと重なって、
その言葉が体に刻まれることも。
その物語は読み終わったあとも余韻として残り、
その旅のテーマソングのように響き続ける。
ぼくたちのガイドもまた、そうでありたい。
ON THE TRIP. ぼくたちの旅は続く。