天ぷらは1秒をかけた真剣勝負。
写真を撮らずに箸をとれ!

天ぷらほど賞味期限の短い食べ物はない。
天ぷらは「秒」で決まる。
秒で劣化していく、と言いかえてもいい。

そのスピードは寿司よりシビア。
職人の手から、あなたの皿に渡った瞬間。
それが紛れもなく美味しさのピークである。

なにしろ、揚げたての衣の中には繊細な食材が、
1秒を争うレア加減で焼き蒸された状態なのだ。

だから、その前に。余熱がまわるその前に、
間髪おかず口の中にいれなければいけない。
専門店のカウンター越しに食べる天ぷらは、
蕎麦屋の盛り合わせや天丼とは別物なのだ。

それと、もうひとつ。
天ぷら職人が無口である理由を知っているだろうか。
彼らは「秒」を数えているという。

たとえば、海老を10本揚げるとする。
この海老なら20秒、この海老なら21秒と、
素材によって秒数を決めながら
天ぷら鍋にいれた瞬間から数えているのだ。

同時に、鱚(キス)を揚げるとする。
さらに、時間のかかるアナゴを揚げるとする。
野菜も半熟卵も揚げるとするとどうだろう。

それらを同時に頭の中でカウントしながら、
お客さんと会話をすることができるだろうか?

職人は至難の技を己を賭けてやっている。
指先に加えて、頭脳もフル回転させているのだ。
その証拠に、すべての天ぷらを揚げ終わると、
人が変わったように会話をはじめる職人は少なくない。

ひとつひとつの食材の1秒を見極めて
作品として、芸術の域まで高めたのが天ぷら。
だからこそ、出された天ぷらは、すぐに食べねば。
カメラじゃない。箸を抜いて構えなければ。

職人にとっても、あなたにとっても、
天ぷらは、真剣勝負なのだ。

天ぷらとは、脱水である。

食材を鍋にいれた途端、ぷつぷつと沸き立つ泡。カラカラと揚がる音は、水分が飛んでいる音にほかならない。音は次第に弱くなり、職人の耳だけに仕上がりの音が鳴る。

「天ぷらとは、脱水ですよ」

これは、名店「みかわ」の生ける伝説、
天ぷら職人「早乙女哲哉」氏の言葉である。

たとえば、キスの場合、
皮よりも身のほうが水が抜けやすいため、あらかじめ身側に生粉をふって極端な脱水をおさえる。さっと衣を揚げて、キスの旨みを閉じこめること2分。何度もひっくり返しながら余分な水分だけを抜いていく。

たとえば、エビの場合、
220℃まで温度をあげて23秒前後で一気に揚げる。すると、エビの中心はレアな焼き加減になり、舌が最も甘みを感じる45度に仕上がる。

どの部分にどれくらいの衣をつけるのか。どのタイミングで裏返して、そして、引き上げるのか。食材の味を引き出すために、極限まで水分を抜いていく。すべては、一発勝負。職人の腕前をカウンター越しにのぞいてみよう。

エビを衣液にひたす。引き上げる。エビをつたう液の量まで計算しながら鍋にいれる。同じエビでも、1本目と2本目で揚げかたが違う場合がある。あなたには、そのレベルがわかるだろうか。

火力調整はまるでDJブースのミキサーだ。
180度か、190度か、220度に引き上げるのか。ときに、飛び散る揚げ玉で1度単位の調整をしながら、LIVEで反応を見ながらチューンナップする。そこに職人のアーティストとしての個性が出る。

もちろん、余熱まで計算されている。鍋から引き上げて、油を落とすための数秒。そして、箸で客の皿に運ぶまでの数秒。必要な余熱はそこまで。

天ぷらは出された瞬間が、美味しさの絶頂。
真剣勝負たるゆえんである。

実は、天ぷらは日本で生まれた料理ではない。

フランシスコ・ザビエルがキリスト教を日本に伝えた時代に、天ぷらは、ポルトガルから長崎に伝わったといわれている。

ポルトガル語に「テンポラ=四季の斎日」という言葉がある。それは、新しい季節のはじまりに備えて、心身を整える日。肉食禁止のため、魚料理を食べるならわしだが、その中に揚げ物である「フリッター」があった。

それを南蛮料理として取りいれたのが「テンプラ(天ぷら)」。江戸時代になり、油を作る技術が発展すると庶民的な食べものに。とくに江戸には、江戸前寿司があった。おそらく、寿司にするには鮮度が足りない魚を揚げたのだろう。魚のくさみも消えることから、天ぷらは一気に普及した。

当時の屋台は、まるで串揚げのよう。ズラリとならんだ天ぷらは串刺しになっていて、どんぷりいっぱいのつゆに、みんなでつけて食べていた。もちろん二度漬け禁止である。そして、天ぷらの屋台のとなりには、蕎麦の屋台があった。コラボによって、天ぷらそばが生まれたのは想像に難くない。

天ぷらの食材となるのは、エビやキスといった魚介類や季節の野菜。それらに小麦粉をまぶして、「衣液」につけたものを、高温の油で揚げる。衣液の作り方もいたってシンプル。卵をといて水と小麦粉をまぜるだけ。天ぷらの作り方とは、言葉にしてしまえば、簡単である。

それだけに、天ぷらの歴史は1秒を争う「技」の歴史。天ぷらは揚げ物だが、衣に包まれるため、食材は焼きながらにして蒸されているといえる。それが、天ぷらならではの、外はカリカリ、中はふわふわというギャップを生む。その進化の行く末は、あなたの舌で味わっていただきたい。

天ぷらとは、季節を味わう食べもの。

スタンダードな天ぷらコースといえば、
エビ、キス、野菜を挟んで、アナゴ。
締めに貝柱のかき揚げを、といったところ。

しかし、
天ぷら屋は一度だけではわからない。
というのも、天ぷらは季節を味わうもの。
出される食材は四季折々で変わるのだ。

春は、タケノコ、ふきのとう、たらのめ。桜エビや白魚などの稚魚。
夏は、オクラ、アスパラガス、ししとう。ギンポは天ぷらならではの食材だ。
秋は、なんといってもキノコ。マツタケ、マイタケ、シイタケ。魚はハゼ。
冬は、さつまいも、長芋、菜の花。人気のアナゴや白子もこの季節。

天ぷら専門店ではあまり見かけないが、変わり種も面白い。

・アイスクリーム
カステラのようなものでアイスを包んでから、天ぷらの衣をつける。そうして、揚げているあいだに溶けるのを防いでいる。

・半熟卵
とろとろの半熟加減をそのままに、衣が固まる程度にサッと油で揚げる。

・まんじゅう
餡子がはいった酒まんじゅうを天ぷらに。主に福島県で親しまれている。

・寿司
巻き寿司だけでなく、握り寿司も。タネというよりネタである。

関東風と関西風でも違いがある。
関東は、主に魚を食材にして、卵を使った衣をつけ、高温のゴマ油で揚げる。
金ぷらと呼ばれ、黄色い天ぷらになる。
関西は、主に野菜を種にして、小麦粉のみで衣をつけ、低温のサラダ油で揚げる。
白い天ぷらとなり、塩をつけて食べる人が多い。

天ぷらの食べかたはひとつ。すぐ食べること。

「天ぷら屋に行くときは腹をすかして行って、親の敵にでも会ったように、揚げるそばからかぶりつくようにして食べていかなきゃ、天ぷら屋のおやじは喜ばないんだよ。」

これは、食通・池波正太郎氏の言葉である。
さぁ、お立ち会い。真剣勝負のはじまりだ。

1:出されたら、すぐ食べる。

とにかくスピードが命。余熱まで計算しつくされた天ぷらは、目の前の皿に置かれた瞬間がピーク。写真なんて撮っている暇はない。猫舌などと言っている場合でもない。ガツガツ!アツアツ!でも、うまい!それが、天ぷらだ。

2:皿には二度と戻さない。

一口で食べられるものは食べる。まず半分を食べる場合も、残り半分を皿に戻してはいけない。箸でつまんだまま、二口目で食べてしまおう。海老のしっぽも食べられるが、残す場合は皿の隅によけておく。

3:塩かつゆか、決まりはない。

江戸はつゆ、京都は塩。そう言われたのは昔の話。現代はどちらも用意されている店がほとんど。種によって決まりがあるわけでもない。どうぞ、お好みで。べったりとつけてはいけない。箸で天ぷらをつまんで、どちらかにちょちょいとつけて、そのままパクリ、だ。

4:盛り合わせは手前から食べる。

盛り合わせの場合、エビやキスなどの味が淡白なものが手前に。アナゴや根菜など味が濃いものは奥に盛られている。繊細な味わいを楽しむには、手前から形を崩さないように食べることが理にかなっている。

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