禅で深まる夫婦のコミュニケーション。
子供とも一緒に未来を語っていきたい。
【禅で変わった私の暮らし】

第四回 糸山晃司さん

「InTrip」の音楽制作に関わっている糸山晃司さん。「制作に関わるまで禅や瞑想はしたことがなく、流行りのものだとどこか斜に構えてみていました」と話します。
仕事への理解を深めるためにはじめた禅が、いつの間にか生活のあらゆる場面に波及していきます。今では夫婦で禅に取り組むのが日課。家族でどのように禅を取り入れ、それによりどんな変化を感じているのかをうかがいました。

瞑想音楽の制作を機に
自分を整える禅の世界へ

――糸山さんのお仕事、現在の暮らしについて教えてください。

音楽家として、寺院や美術館など空間のBGM作成、CMや映画への楽曲提供などをしており、「InTrip」でもアプリ内の瞑想音楽の制作をしています。自宅を拠点に仕事をしていますが、「フィールドレコーディング」という手法で自然の音を録音して曲を作ることが多いので、森や海にもよく出掛けています。

妻と3歳の息子との三人暮らしで、息子が今年幼稚園に入るまでは、日中妻が仕事へ行っている間、育児をほぼ一人でしている期間が1年半ありました。

――「InTrip」では制作者としてお仕事されているのですね。日中は育児も!

瞑想音楽は提供するものの、禅アプリというのがどういうものなのかよく分からない状態でした。禅を理解したいという思いから「InTrip」リリースと同時に使いはじめました。
もともと感情の波は大きくないのですが、はじめての育児にイライラしたり、ストレスを感じることが増えていたころでした。

せわしない育児の合間に、ひと息つきたいと思うようになり、息子が昼寝をしている間に禅プログラムを1つやることからはじめました。禅をはじめる前に環境を整えましょうとナビゲートされるので、散らかっているオモチャを片付け、座布団を用意し、お香をたきます。

それだけで、部屋も自分もととのうというか…忙しさで忘れていた、自分と向き合う時間を持てました。

――「InTrip」を通して、忙しさに気づかれたようですね。

そうですね、お香はもともと好きで家にあったのですが、その存在すら忘れるくらい、日々バタバタと過ごしていたことに気づきました。禅をきっかけに、自分の時間を取り戻し、好きなことを思い出すことができました。

夫婦で問いに向き合うと
日々の感謝が増していく

――禅はその後も続いていますか?

息子が幼稚園に通いはじめた今年の4月からは、寝る前に妻と二人で「InTrip」の禅プログラムを聴くのが日課です。仕事を辞めて学校に通い始めた妻は、新生活がスタートしたばかり。落ち着く時間をとってもらいたかったので、ちょっと強引に誘いました(笑)。

よくわからないまま禅をはじめた妻も、二人で一緒に「InTrip」アプリを聴き、ワークする時間を楽しんでいるようです。ナビゲーターの伊藤東凌和尚の問いに答えていくワークを一緒にはじめてからは、夫婦のコミュニケーションが深まっているのを感じます。


――ご夫婦でどんなコミュニケーションが多くなりましたか?

「ほどく」という問いに向き合うコンテンツで、さまざまな質問をされるのですが、その内容を共有することが多いです。

「お父さんとの思い出はありますか?」「自分の死後、自分の記憶を残しておいてほしい人を一人選ぶなら誰ですか?」など、日常の軽い話題から深く考える内容まで様々です。普段の生活で意識しないことを、立ちどまって考える機会を与えてもらっています。

プログラムの最中は二人とも心の中で問いに答え、終わってから「三番目の問いになんて答えた?」と答え合わせをします。そのまま2時間ほど話し続けることもあり、夫婦で意識を共有して向き合う時間になっています。

「1年後に死ぬなら何をしますか?」という問いからは、これから何をしたいか、どこで暮らしたいかと将来の希望に話が広がりました。

問いに向き合うことで、自分たちが本当に望む生き方や、暮らしの優先順位を意識するようになりました。僕の仕事は場所を選ばずできるので、縛られないぶん何を選択するのかすべて自分自身にかかっています。流されていくのではなく問い続けることで、人生の質を高めていきたいです。

――いろいろなプログラムや問いが出てくるようですが、難しくないですか?

最初は基本的な瞑想や呼吸のワークからはじめて、慣れてから中級向けプログラムへ進みました。気に入ったプログラムは何度も繰り返し使うのですが、同じプログラムでも取り組むときの自分の状態によって反応が変わります。一度やっておしまいではなく、時期を変えて続けることで新しい発見があり、難しいというより奥深さを感じます。

今は「窓を増やすトレーニング」というプログラムをよく使います。呼吸をしながら身体の中に窓を開けて、そこを風が通り抜けるイメージをします。窓が開くことで自分と世界を隔てる境界があいまいになり、世界との一体感の中で五感が解放される感覚を味わいます。自分の中の窓を風が通るたびに、一日の疲れ、エゴや穢れが抜けていくように感じて、ワークを終えると浄化されたようなスッキリした感覚で眠りにつきます。

ほかにも「寝落ち禅」「朝昼晩の呼吸禅」など気に入ったプログラム7,8個をローテーションしながら、定期的に内容が更新される「ととのえる」などのプログラムも取り入れています。


――禅は一人でするものというイメージがありますが、家族で一緒に取り組むというのは面白いですね。

「InTrip」はパートナーやお子さんとも一緒にやってほしいです。コミュニケーションやお互いへの感謝が深まるし、家での過ごし方も変化します。僕は妻から「歩き方がバタバタしてうるさい」と言われていましたが(笑)、瞑想をした後は足先まで神経が行き届いて、所作が静かになります。最近は足音がうるさいと言われなくなりましたね。

息子はまだ3歳ですが、寝付かないときは一緒に瞑想音楽を聴いたり、プログラムの音声を聴かせることもあります。夫婦で瞑想をしていると、かたわらで息子がいつの間にか寝ています。東凌さんのゆったりとした口調も眠りを誘うようで、寝かしつけにも重宝しています。問いの意味を理解できる年齢になったら、三人で問いについて考え、話し合う時間を持ちたいです。

思い込みが溶かされて
本当の気持ちに気づく

――禅のよい影響が、ご家庭全体に及んでいるようです。

そうですね。家では家事をする時間も多いのですが、取り組む意識も変わりました。禅をはじめて何かにつけ思考するクセがついてから、家事の途中にもふっと考えごとをするようになり、そんなときにいいアイデアが浮かんだり、煮詰まっていた仕事の解決策が見えることがあります。

「InTrip」に参画している応用神経科学者の青砥瑞人さんが、「意識が深く狭いところから広く浅いところに移ってきたときに、ひらめきが降りてくる」とおっしゃっていましたが、まさにその感覚です。集中して仕事をする合間に、掃除や食器洗いなど単純な家事をすることで、瞑想や坐禅をしているリラックス状態に近くなるようです。

それを知ってからは、家事を面倒なことと捉えず、仕事にも良い影響を与える意義深い行為だと考えるようになりました。


――禅で、家事が意義深く大切なものになる。それは素敵ですね!

禅の考え方は、日々のあらゆる出来事に応用できます。禅の視点を取り入れることで、思考、感情、所作に影響を受けているし、新しい知識や気づきを得ることも多く、知的欲求も満たしてくれます。「ととのえる」というプログラムでは、日本の習慣や仏教で使われる言葉の意味などを分かりやすく説明してくれるので、知っているようで知らなかったこと、当たり前すぎて気に留めていなかったことを改めて学び直しています。

禅に取り組んだ結果として思考や感情、性格が自然と変化していくことも面白いし、学んで考えるという行為自体が幸福度を上げてくれると思います。

自分の感情や出来事を俯瞰して眺める練習を続けたことで、「こうあらねばならない」という思いもだいぶ手放しました。「夕方までに仕事を終わらせねば」「時間を決めて食事すべき」などの固定観念について「なぜそう思うのか?」と俯瞰して自分に問いをたてると、大した理由はなかったりします。

思い込みの思考を禅で溶かしていったら、自分の心地よさや本当の気持ちにフォーカスして暮らせるようになりました。夜中に仕事をしてもいいし、お腹が空いたら食べればいい。とらわれず、ゆるっと生きていきたいです。

――思い込みから解放されて自由になれた。これからは、ご自身にどんな変化を期待していますか?

常に俯瞰して自分を見られるようになりたいです。これまでは、イライラや怒りがわいたときはその感情に簡単に飲まれてしまい、コントロールできませんでした。今は、一日の終わりに「なぜあのときイライラしたのだろう」と後から振り返り感情を眺めることができるようになりました。感情の起伏があったとき、その場ですぐに俯瞰して自分を見られるようになれたらいいですね。

とはいえ、人は完璧ではないし、子育てはイライラしたり怒ったりしながらするもの。心地良さを大切にしながら、自分の変化を楽しみたいです。

そして禅で磨いた感覚を、音作りにも活かしたいです。余計なものをそぎ落とし、音の一つひとつを研ぎ澄ませていく行為は、禅に通じるところがあるなと思います。「なぜ自分はこの曲を作りたいのか」と心の奥を探求しながら、より禅的な音楽を作っていきたいです。


――禅を通じて家族との繋がりを深める中で、思考、感情、暮らし、仕事…とすべてが禅で優しく包み込まれていき、「人生への探求心が深まりした」という糸山さん。
その探求の一端を、「InTrip」の瞑想音楽の進化からも感じることができそうです。

聞き手・ライター野村佳未

糸山 晃司
1991年生まれ。音楽家・サウンドアーティスト。CMや映画への楽曲提供の他、空間のBGMや音響を手がける。2021年6月、禅をテーマにしたアルバム「Perspective "視座"」をリリース。InTripのアプリ内音楽も。
koji itoyama HP http://kojiitoyama.info/

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